相場を「上がるか(50%)」「下がるか(50%)」の単純な確率論のゲームと捉えた時、理論上は同じ割合で勝つ側と負ける側が生み出される事になる為、勝者と敗者の「比率」にはそこまで大差は生じない事となるはずです。
ただ現実は、そのような理論値に収まる事はなく、相場に参加する大半の投資家・トレーダーが「負けている」とされており、一説では「9割以上」の方々が何らかの形で負け越している、もしくは退場を余儀なくされているとも言われています。
確かに、相場は「コイントス(コイン投げ)」のような単純な確率論のゲームではありませんので、長期的に見て綺麗に勝者と敗者が別れる事はありません。
飽くまで相場は、投資家・トレーダー達が手掛ける「度重なる売買の結果」として動く代物である以上、そこには物理の範疇を超えた「人間の心理的な偏り(バイアス)」が常に介入する事となるからです。
従って、その心理的な偏りが生じる範囲の中で「負けている側」と「勝てている側」が存在するわけですが、それにしても目も当てられないレベルで「相場の世界には負けている人が蔓延っている」と言わざるを得ません。
ただ、これは人間の心理的な習性を踏まえれば「当然の結果」であり、それは往々にして『プロスペクト理論』と呼ばれる損失回避の心理に起因していると考えられます。
損失を回避したいという人の心理と行動が、結果として、多くの敗者を生み出す要因となってしまっているという事です。
そこで本日は、そんなプロスペクト理論に代表される人間の心理的な習性を踏まえて、「なぜ多くの人は相場で負けてしまうのか」を考察していきたいと思います。
FXで負ける人に共通するプロスペクト理論と損失回避の心理について
まず何より「プロスペクト理論」に代表される損失回避の心理とは、端的に言えば「損失を避ける為の意思決定を下しやすい」という人の心理的な「習性(傾向性)」の事であり、これは以下のような心理実験の結果、立証に至ったと言われています。
【パターン1】
A:100万円が無条件で手に入る
B:コインを投げて表なら200万円得られるが、裏であれば何も得られない
⇒ 多くの人は何も得られない「リスク」を回避する為に「A」を選ぶ傾向にある
【パターン2】
A:200万円の借金が無条件で半分になる
B:コインを投げて表なら借金が0円になるが、裏であれば何も変わらない
⇒ 多くの人は借金が残る「リスク」を回避する為に「B」を選ぶ傾向にある
上記2つのパターンから導き出される人の心理的な傾向として、人は「確実に利益を享受できる状況」にあれば、仮にその利益が「倍」になる可能性があったとしても『確実な利益が得られないリスクを避ける(確実に利益を得ようとする)』傾向にあるという事です。
ただ一方で、それが「借金(負債)」であった場合は『全く逆の意思決定』を下すのが人の心理的な傾向に他なりません。
つまり、人は「負債の半分を確実に帳消しにできる選択肢」を選ぶよりも「2分の1の確率で負債が全て帳消しにできる可能性」を選択する傾向にあるわけです。
ここから言える事は、人は「リスク」と「リターン」を前にした時に下す意思決定が「全く異なる傾向にある」という事であり、これがプロスペクト理論に基づく人間の習性と行動に他ならないという事です。
人は「確定的な損失」を手放しに受け入れられない
ただ、この段階では、ここで言う損失回避の心理が「相場の世界で負けトレーダーを増やす要因になっている」というイメージに繋がらない方もいらっしゃるかもしれません。
一見すると「損失を回避したい(= 利益を確実にモノにしていきたい)」という心理傾向は、相場の世界で「堅実」に利益を積み上げる方向に働くものだと思えてしまうからです。
事実、相場は常に上昇と下降を繰り返す性質上、実際にポジションを持った時点から思惑通りの方向に値動きが進行したとしても、いつかは元のレートに戻ってくる可能性もありますし、当然、そのまま含み損を抱えてしまう状況すら否定できません。
従って「利益を早く確定したい(目の前の利益を失いたくない)」という人の心理的な傾向性は、時として、含み損になるはずだった可能性を回避できるという意味で、その早い利確判断が「良い結果を生み出す」という捉え方も可能です。
確かに、相場の世界では「損小利大(損失は最小限に、利益は最大限に)」という考え方が一定の支持を得ていますので、早い利確判断は「悪手」と捉えられる傾向にありますが、如何せん、それが直接的な「負け」には直結しない以上、多くの敗者を生み出す要因にはなり得ないのが実情なんです。
事実、相場の世界で悪手とされる「損大利小」を前提としたトレード手法でも、理論上、勝ち越す事は可能です。
その詳細は以下の記事で解説しておりますので、興味があれば、併せてお読みください。
むしろ、この理論に基づく人の心理の問題点は、他でもない「損失方向への心理的傾向」であり、これは長い目で見て「ほぼ確実に破産をもたらす危険な習性」に他なりません。
先立って相場は常に上昇と下降を繰り返すと言いましたが、時として、相場は『思惑とは「逆方向」に延々と突き進む事』もあります。
当然、その際にポジションを持っていたならば、相場が逆側に進むにつれて含み損が膨れ上がる事になるわけですが、プロスペクト理論に基づく人間の習性上、多くの人は、
「相場が元のレートまで戻るのではないか(目の前の含み損を確定させたくない)」
という心理状態に至る可能性が高く、そのような心理状態に忠実に従ったが最後、もう戻るか分からない値動きを「指を咥えて見ているだけ」という事にすらなってしまいかねないわけです。
もちろん、含み損を抱えている状況下から相場が元のレートまで戻る可能性も普通にありますので、多くの場合「損切りしない(損失を受け入れない)」という判断が功を奏する事になるかもしれません。
ただ実情として、相場は時に「戻らない事」もありますので、損切りしないという意思決定は、いつか最悪の結果を招く「危険な意思決定」と言わざるを得ないんです。
現に、その損切りをしない判断を前提に投資・トレードを行う方は「控えめに言っても多い」のが実情である為、それがこうして「大半の相場参加者が負けている状況」を生み出してしまっているという事です。
損失を受け入れられない心理は相場において「確定的な破滅」をもたらす
確かに、レバレッジを前提としない「現物株式」などであれば、どこまで相場が逆方向に進もうと「強制ロスカット(強制的にポジションが解消される措置)」に相当するシステムが存在しませんので、いつか戻る事を期待して「塩漬けにする」という選択も取れなくはありません。
ただ、現物株式であろうと2度と戻ってこない可能性ももちろん考えられますので、塩漬けという選択は、もはや「事実上の負け」と言っても過言ではないと思います。
ですが、それがレバレッジ取引を前提とした「FX(為替取引)」や「株の信用取引」などであれば、どう足掻いても強制ロスカットという名の「終着点」が生じてしまう事になる以上、損切りをしないという意思決定が文字通り「最悪の結末(運用資金の大半を吹き飛ばす状況)」をもたらす事になるんです。
FXを手掛ける投資家・トレーダーは、株の現物を手掛ける方々と比べて「圧倒的に負けている人が多い」と言われていますが、これは実情として、本当にそのような傾向にあるんだと思います。
結局の所、それはプロスペクト理論に基づく「損失を許容できないという人の心理」と「強制ロスカットという避けられない終着点」が奇しくも合わさってしまう結果、高い確率で招いてしまう事となる現実だからです。
ちなみに、以下の記事ではそんなレバレッジの危険性について詳細に言及しておりますので、良ければ併せて参考にしてみてください。
そんなプロスペクト理論に基づく「負の心理構造」は克服できるのか?
ここまで解説させて頂いた通り、プロスペクト理論に基づく損失回避の心理構造が、相場の世界で「負けている人」を生み出す大きな要因の1つである事は間違いないと思います。
こと「相場」という世界においては、投資家・トレーダーがすべからく備える「心理」と「行動」が、最終的な『負け』へと誘う危険性を孕んでいるという事です。
加えて、FXや信用取引における「強制ロスカット」というシステムにより、どうあっても避けられない終着点が生じてしまう事で「負けてしまう可能性」は一層高まってしまう為、特にレバレッジを前提とするFXなどにおいては負けている人が続出してしまうんです。
ただ、これは逆説的に、そんな損失をもたらす「負の心理構造(感情)」を制御さえできれば、少なくとも「感情を起因として負けてしまう状況は避けられる」事になります。
では、そんな損失回避の心理構造を「制御する事(克服する事)」は可能なのでしょうか。
結論から言えば、心理構造の克服は「(不可能ではないものの)一筋縄ではいかない」というのが現時点における私の考えに他なりません。
現実として、損失回避の心理構造は反射的に生じる「人間の習性」である以上、これを真っ向から完全に克服する事は難しいと思えてならないんです。
もちろん、鍛錬によってある程度改善できる余地はあると思いますが、いずれにせよ、この理論を認識しても尚、それを「克服できない(= 負けている)」でいる投資家・トレーダーがごまんと存在する現実を踏まえると、無闇に克服しようとする行為はあまり賢明ではないと思います。
よって、損失回避の心理構造を「真っ向から克服する」よりも、そのような心理構造を持っていても「勝ち続けられる状況(負けない状況)」を模索する方が得策だと思えてなりません。
そして、現時点における私の中でのその答えは、結局の所、確固たる「トレードルール」以外にはなく、損失を認められない、そんな「心理状態に至らない(至りづらい)売買」をルールによって徹底していく他ないと思うわけです。
実際、損失を認められない感情が沸き起こるのも、許容できる損失の範囲を「越えるから」だと思いますし、その範囲を超えない状況下での損切りは、おそらく躊躇なんてしないと思います。
極端な話、現在価格100万円の投資対象銘柄に対する損切り幅が「1円」だったとしたならば、多くの場合、損失を許容できない心理状態に至る事なく、即座に損切りを実行できるはずです。
確かに、それは極端すぎる例かもしれませんが、飽くまで、ここで言いたい事は「自らが許容できる損切り幅を認識した上で、その範囲の中で損切りを設定しても尚、勝てるルールを作り出せばいい」という事です。
以下の記事では、そんな投資家・トレーダーが抱く心理構造を踏まえた「最適なトレードルール」について言及していますので、良ければ併せて参考にしてみてください。
> トレーダーの心理構造を踏まえた最適なトレードルールの考察 ※ 誠意執筆中
以上『FXで負ける人に共通するプロスペクト理論と損失回避の心理について』について言及させて頂きました。
本記事があなたの投資活動に、何らかの形で寄与できれば、幸いでございます。
最後までご精読頂き、ありがとうございました。